
ライフデザイン支援取組事例の紹介[1]
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「3つのテーマと、3つのステップ」
「高校生のライフデザイン講座」は、自分の生き方を題材に、生きるを学び、探究する授業です。授業では、3つのことを大切に授業設計をしています。一つ目は、内発的な動機です。高校生たちが、「自分の人生をこうしていきたい」、「自分はこういうことを学んでいきたい」、そうした内発的な動機をいかに早い段階で高校生自身が感知できるか、このポイントをまず大切にしています。二つ目に、当事者意識です。自分と学ぶテーマ、学ぶ対象に対しての関連性を意図的に意識づけることを大切にしています。こうやって内発的な動機と当事者意識を育んだ上で、三つ目に行動と振り返りを大切にしています。実際に自分で調べてみたりとか、自分で考えてみたりとか、友だちに相談してみたりすることで「学び」を深めていき、最終的には発表という形で、1年間を通してライフデザイン講座をやっていきます。授業前は、「自分なんて出来ない」「でも」「だって」「どうせ」「私はやっても意味がない」と答えていた子たちが、授業の中で「生きる」ことを学び、大人との出会いや関わり合いを通じて、自分ってこう生きていきたいな、自分にも出来るんだ、卒業後が楽しみだな、そう思えるように育んでいきたいと考えています。
授業には、大きく3つのステップがあります。まず、「発見」です。高校生は、生き方や考え方の違いなどを、お互いに話し合ったり学び合ったりする機会がなかなかありません。このステップでは、自分自身の考えと相手との違いをしっかりと認識することで、自分ってどういうことに興味、関心があるのかな、自分はどういうことに接点を持っているのかなということを発見していくフェーズです。このときに大切にしていることは、高校生同士の関わり合いもさることながら、どちらかというと、社会との接点だと思っています。そのため、ゲスト講師として大人の方に来ていただき、「生き方」を赤裸々に語っていただきます。本日、一緒に登壇されている福田さんも4年前からご協力をいただいていますが、福田さんがなぜ今産婦人科の室長として仕事をしているのか、そのときの自分の原体験ってなんだったのかを、私たちが事前にヒアリングをさせていただき、その内容を授業に変えるというコーディネートをしています。生きた教材からは、生きた「学び」が生まれます。
たとえば一人親家庭の子たちに向けて授業をしたこともありますが、状況はとても複雑です。お義父さんが3回変わっているとか、DVを受けているとか、そういうことを話してくれる子たちもいます。そのような子たちは、自分の人生が本当に豊かに生きていけるのか、切実に悩んでいるわけですね。その悩みを、今すぐ解消することは出来ないんだけれども、同じように壁にぶち当たって、どう乗り越えてきたのかということを、ゲストに話していただいたりしているわけです。とあるゲスト講師の方は、女親一人で息子を育ててきて、どういう想いで息子を育ててきたのかということを赤裸々に語ってくれました。その方が授業に来られる時、高校生たちはいつも号泣しますね。自分の琴線に触れる瞬間があって、高校生たちは言葉にできないんだけど、感情で表してくるわけです。そして、話を聴くだけではなく、今自分自身がどういう想いなのかを伝えたり、ゲストに質問をして返答をもらう。このときの「学び」というのは、私たちは何にも代え難いものだなと思っています。聴くだけではなくて、聴いてどう感じたかを表現し合ったり、言葉にし合うようなアクションをとにかく小さくてもいいので、どんどんどんどん生み出していって、「学び」を深めていくということが高校生のライフデザイン講座で大切にしていることです。
あと、授業においては、皆さんもやったことがある方もいらっしゃると思いますが、「人生グラフ」というワークをやります。横軸は年齢、縦軸は自分のプラス、マイナスの感情の起伏です。自分の人生をモチベーションのグラフで辿っていって、それを友だち同士で話し合うというワークです。私たちは、10人いたら10通りの物語があると思っています。高校生に自分の経験談を語ってくださいと言うと、「私は語ることない」ということをよく言われます。しかし、ワークとして自分の人生を振り返ってみると、あるんですね。悩んできたこと、良かったこと、嬉しかったこと。そういった物語を、「これからの自分はどうで描いていくのか」。そういうことを考えるのが、ライフデザインです。
そして、生き方って様々なんだな、と発見したときに、次に「探求」という、実際に本格的なアクションと学びが生まれます。例えば、佐藤病院の福田さんの話を聞いたあとに、病院にお邪魔させていただいて、実際に病院で出産した人のご協力の上で、高校生たちが生後3日のまだ首も座っていない赤ちゃんをたどたどしく抱っこする。そうすると、彼らは震えます。「やばい」とか言って。また、赤ちゃんが生後3日なので、ママも3日目です。そんな3日目のママに、妊娠、出産を経て、気持ちにどういった変化が起きたのかということを率直に語ってもらったりもしています。こうした体験により、高校生たちは生きた教材をしっかりと自分の中で認識することができます。
プログラムによっては、大人にインタビューすることもあります。例えば、校長先生にインタビューするときもあります。「なんで先生になったんですか」、「やりがいはなんですか」、とか聞くわけです。先生も率直に語ってくれます。あるとき、校長先生にインタビューした高校3年生の野球部の子に、感想を聞きました。すると、「今回来た校長先生(その年の春に赴任された校長先生だった)、よくあいさつしてくれるんですよね。僕ら野球部をすごく応援してくれるんですよね。それでこのインタビューをして、なぜ校長先生が自分たち野球部や、高校生である自分たちに対してまでも、あいさつしてくれてしっかり関わってくれるのか、その理由が分かったんですよ。嬉しかったですね」と教えてくれました。大人がどんな思いで仕事をしているのか、どんな思いで暮らしているのか、普段は見えづらいその裏側を自分たちで獲得していくわけです。時には学校を飛び出して、自分たちでアポイントメントを取って取材をします。アポ取りの原稿マニュアルは一応あって、事前に練習もしますが、全然上手くはないんですね。機械みたいに原稿そっくり喋るんですけど、実際に自分なりに想いをアポを取って、それに応えてくれる大人が世の中にいるんだ、という実感を自分でアクションして得ていく、これが重要なんだと思います。
高校3年生の時に授業を受けて、今年20歳になる子がいます。まもなく出産するそうです。彼女と久しぶりに連絡を取ったら、高校生の時に赤ちゃんを抱っこした経験とか、色々な人たちに色々な生き方を聞けたことが今の自分の財産になっている、そんなことを言ってくれます。子どもが生まれたら、色々な人たちとの関わりをしっかり育んでいけるようなママになりたい、そんなことを言ってくれて、私は泣きそうになります。
こうした「学び」を経て、最後のステップは「発表」となります。このステップが非常に大切で、こだわりをもってやっています。本日は学校の先生もいらっしゃいますが、そんな中、申し上げるのが大変恐縮なのですが、学校の授業での「発表」というのは、時に誰に対して発表しているのか、よく分からないスタイルになっている場合があると感じます。高校生は、自分が学んできたことを発表するとき、明確な対象者がいないとモチベーションが上がりませんし、やる気にもなりません。ですので、私たちの授業では、今まで1年間授業に関わってきていただいた人たちをお招きして、その人たちに向けて、自分たちがどんなことを学んできたのかということを発表してもらいます。あるいは、一学年下の後輩たちに向けて発表します。1年間受けてきた「学び」を、下の子たちが学んでいきますので、後輩たちに、自分たちはこういうことを学んできて、きっとみんなもこういう経験するかもしれないよとか、こういう経験したときにはこうするといいかもね、という話を発表していく。このように、対象者を明確にして発表することが、発表者自身の学びにもつながっていくと考えます。